B型肝炎ウイルスキャリアとは

成人は免疫機能が確立しているため、B型肝炎ウイルス(HBV) に感染しても、多くの場合は 不顕性感染 で自然に治癒します。
一部の方では、 急性肝炎 を発症し、一過性の感染を経て治癒します。

どちらの場合も、 ウイルス は体から排除されており、HBVに対する免疫を獲得しています(しかし最近の研究で、健康上の問題はないもののごく微量のHBVが肝臓に存在し続けることが明らかになってきました)。

しかし、免疫機能が未熟な乳幼児、透析患者さん、免疫抑制剤を使用している方などがB型肝炎ウイルスに感染すると、免疫機能がウイルスを異物と認識できないため肝炎を発症しないことがあり、ウイルスが排除されず、ウイルスを体内に保有した状態< 持続感染 >になります。
このように、ウイルスを体内に保有している方を “ キャリア ”と呼びます。

ジェノタイプBやCのHBVの 一過性感染 により発症する急性肝炎では、キャリア化することはあまりありません。しかし、近年報告が増えているジェノタイプAのHBVに感染した場合、キャリア化する可能性が高くなります。

キャリアの方の約90%は一般的に、無症候期から肝炎期、肝炎沈静期と移行し、その後、無症候性キャリアのまま生涯を経過します。しかし、約10%の方は 慢性肝炎 を発症し、 肝硬変肝細胞がん へと進展する危険性があるとされています。

慢性肝炎になると、免疫によって攻撃された肝細胞は死滅しますが、肝細胞は再生能力が旺盛なため再生してきます。長年にわたり肝細胞の死滅と再生が繰り返されますが、細胞の再生が間に合わない場合、死滅した肝細胞の部分に、星細胞が線維を作り肝臓が形を保持するのを助けようとします。この線維が増えてしまうと、肝臓は硬くなりゴツゴツとした外見の臓器となります。この状態が肝硬変です。

肝硬変になると、肝細胞の多くが破壊され、血液の循環が悪くなるため、肝臓は本来の機能が果たせなくなります。そして長い年月の炎症により、肝がんを発症すると考えられています。

肝硬変への経緯

B型肝炎 の場合、無症候性キャリアの方や慢性肝炎患者さんが、肝硬変を経ることなく肝がんを発症する事例が少なくありません。原因として、HBVの DNA の一部が肝細胞のDNAに組み込まれ、がん細胞が発生することがわかってきました(下図参照)。そのため、キャリアの方は、肝機能検査値に異常がみられなくても、定期的に肝がんを早期発見するための検査を受ける必要があります。

肝がんへの経緯

ご注意ください!
抗体ができて治った(セロコンバージョン)
は「臨床的治癒」ではありません。

キャリアの症状の経過で、ポイントとなるのが“セロコンバージョン:Seroconversion(Sero-: 血清、conversion: 変化)”です。
HBVキャリアの方が肝炎を発症すると、一時的にウイルス量が増加し、その後は免疫の働きでウイルス量は大幅に減少します。

この時、血液中のHBe抗原が陰性(-)となり、HBe抗体が陽性(+)になります。
セロコンバージョンは、HBVが免疫機能の攻撃をうけて、自分のDNAの一部を変異させることで起こります。免疫機能によってウイルスの活動がおさえ込まれるため、肝炎が沈静化し、無症候性キャリアとなります。

しかし実際には、セロコンバージョンが起きた後もウイルスが増殖を続け、肝炎が進行し、肝硬変や肝がんに移行する人もいることがわかってきました。原因としては、セロコンバージョンの後でも、HBVに変異が起こり、より増殖能力の強いHBVが発生してしまうことなどが考えられています。

このように、B型肝炎はどのような経過をとるのか判断が難しいため、キャリアの方はたとえセロコンバージョンが起きた後でも、定期的に肝臓の検査を受けるようにしてください。

キャリアの方は、肝臓に異常が生じていないか
定期的に検査を受けましょう。