「肝臓病教室」訪問レポート

石川ひとみさんと一緒に行く「肝臓病教室」訪問レポート

慶應義塾大学病院では月に一度、肝臓病教室を開催しています。毎月テーマを決め、医師による病気や治療の話、栄養士による食事指導など2時間にわたって行われています。
参加されるのは外来患者さんをはじめ、入院患者さんやご家族の方、また慶應義塾大学病院以外の患者さんもいらっしゃいます。

とくにユニークなのがグループワークと呼ばれる患者さん同士の話し合いです。4~5名がグループをつくり患者さん同士ならではのお話をされています。

今回は本サイトに登場していただいた歌手の石川ひとみさんと一緒に、肝臓病教室を訪ねました。グループワークを拝見した後、肝臓病教室を始められた加藤眞三先生と対談していただきました。

石川ひとみさんと一緒に行く「肝臓病教室」訪問レポート<前編>

患者さんと共に歩む「肝臓病教室」

加藤先生が肝臓病教室を始められた経緯はどういうものでしょうか?
加藤先生のアイコン

1992年からこの教室を始めました。最初は、外来の診察時間ではなかなか説明しきれないC型肝炎のインターフェロン治療について、効率的に患者さんに伝えるために始めたのがきっかけです。
ですから当初の目的は、医療側より情報を伝えることでした。

しかし、こちらから情報を提供していると、次第に患者さんの質問のほうがメインになってきました。そうなると、内容によっては医者では答えられないものも沢山あることがわかってきました。

加藤先生

例えば、肝生検に恐怖感を持っている患者さんがいた場合に、肝生検の経験者が実際の体験を語ってくれると、情報としての重みがまったく違います。
慢性肝炎の人が肝がんの患者さんと会話すると、「がんの治療が終わったところだけど、この間はゴルフに行ってきて…」みたいな話になったりします。

すると「肝がんをかかえていても、日常生活はそんなものなんだ」という具体的な実感が伝わります。患者さん同士で話し合うことで、お互いの安心にもつながります。

このような場面に接するうち、患者さんが一堂に集まって情報交換することの重要性に気づき、グループワークを始めるようになりました。

さらに肝臓病教室を10年ほど続けて、「このような教室を必要としている患者さんは、日本全国に大勢いるのではないか?」と考えるようになり、『肝臓病教室のすすめ』(メディカルレビュー社)という本を出しました。その後、この本をみて、「うちでもやってみよう」と言ってくれる人が増えてきました。この病院にも88施設もの人たちが訪問してくれて、様々な施設で肝臓病教室が立ち上がり、現在全国100施設くらいで行われています。

石川さんは、患者としてこの教室に参加されて、いかがでしたか?
石川さんのアイコン

肝臓病に関するレクチャー(テーマ:検査)では、正直、病気が怖くなりました。病気になると、自分の病気について勉強しますよね。例えばすべての慢性肝炎患者が肝がんになるわけではないことなど、知識としてはわかっています。わかっているつもりだけど、いざ図やグラフを使って示されると、単純に「怖いな」と思ってしまいます。

それでも聞いているうちに、自分が持っている知識の中で振り分けをし始めて、「なるほど」という面も出てきました。最初はちょっと怖かったし不安が募ったりしたけれども、なかなか診療時間内では説明しきれないことがいろいろわかってきて、わかったことで安心感につながりました。

加藤先生のアイコン 加藤先生と石川ひとみさん

「患者さんには、ある程度本当のことを知ってもらわないといけない」ということが、まずあります。C型慢性肝炎や肝硬変になると、年に数パーセントの率でがんになる患者が出てくるとか、そういった事実も伝えなければいけないわけです。それを伝えたうえで、どれだけ不安感を少なくできるかですね。

自分の病状について何も知らないまま、真っ暗闇の霧の中で、いきなりポンと症状の進行を知らされるよりは、ある程度先が見えるように案内をし、心構えをしてもらって進むことで、うまく患者さんの納得がいく方向に持っていけないだろうかと考えています。

グループワーク -仲間だと思えるから話せること-

グループワークをご覧になってどうでしたか?
石川さんのアイコン

グループワークでは、みなさんすごく自由に会話していたのが印象的でした。自分の検査結果表まで持ってきていて、それを見せながら「私はこうよ」って(笑)。

一生懸命に話しているみなさんの姿を見ると、「こういう場に来ないと、自分の辛さとか不安はなかなかわかってもらえないんだなあ」ということをすごく感じました。だからあんなに活き活きと会話ができて、「私もこうなんですよ」と共通点を確認し合えて、ニコニコしながら帰っていけるんだろうなと思いました。

加藤先生のアイコン

同じ病気を持った仲間だと思えるから話せるということがありますね。いくら相手がいい聞き手であっても、知らない相手とあそこまで話せるということはないですよね。

石川さんのアイコン

本当に。それはないですね。

加藤先生のアイコン

病気に関する情報の提供の集まりでも、いわゆる講演会みたいな形式は割と多いですね。しかし多数の患者さんが参加し、患者さん同士がお互いにコミュニケーションを図れる場というと、なかなかありません。この点がグループワークの大事なポイントだと思っています。

そしてもう1つ大事な点があります。グループワークで患者さんたちの話を傍で聞いていると、医師自身にだんだん「気づき」が生まれてくるんです。「患者さんというのは、実はこんなことを悩んでいるのだ」とか。そうすると、医師が患者さんに語りかける内容も変化してきます。

診察室だけの関わりだと、当然患者さんとの会話も少なくなります。だから医師はコミュニケーション下手だとか言われるのだけれども…(笑)

医学教育に、コミュニケーションを教える時間がなかったということもありますが、やはり「コミュニケーションの場がない」ということが大きな問題です。一般的に医師はすごく多忙であるという現実があります。しかし多忙であっても、月に一回2時間の肝臓病教室を開くということは、実はそんなに大変なことでもない。むしろ、その場で患者さんと話したり、会話を聞いたりすることで医師自身が得ることのほうが多いです。

このような活動を広げていくことによって、医療全体が変わっていくかもしれません。そういう期待感を持ってやっています。

石川さんのアイコン 石川ひとみさん

肝臓病教室に出席すること以上に、病気に関する情報を詳しく聞ける機会はあまりありません。また他の患者さんの話を聞く機会も普段はないですよね。そういう意味で、この教室はとても大切な場所だと感じています。

そしてこの教室には、病気の初期状態、「あなたはキャリアです」と言われた段階から参加したほうがいいと思いました。「肝炎が発症しました」と言われるよりもっと前に、「キャリアって何?」というところから入って、病気の経過や検査、お薬のこと等を徐々に学んでいったほうが、何かあったときに必要以上の不安を持つこともないのでないかと思います。

病気が重くなる前から教室に出席していると心の準備にもなるし、節制など日々の生活にも役立つだろうし、正しい知識を得ることができるので、なるべく早い時期から教室に参加できるのが一番だなと思いました。

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