運動のポイント1

自己負担額

多くの慢性疾患では、エアロビックな運動(有酸素運動)ならば問題はなく、むしろ体に良い効果があるという報告があります。 実際に肝臓病の患者さんに運動指導を行い、適度な有酸素運動を続けると、肝機能に悪影響はなく、むしろ糖尿病状態などが改善されます。

さらに筋肉は糖質代謝やアンモニア代謝をつかさどり、肝臓の機能を補完する作用があります。 肝臓病患者さんにとっては、運動によって筋肉を維持することは大切なことなのです。

また、運動はQOLを向上させるという効用もあります。 病気になるとQOLは低下しがちです。誰でも病気で楽しい人はいません。 でも、適度な運動によってQOLが維持・向上するといった事例はいっぱいあります。 運動を始めた患者さんからは、「表情が明るくなったと言われた。」「顔の色つやがよくなった。」「体調が良くなった。」という話をよく聞きます。 運動により、生活にハリが出て生きがいが生まれます。運動の効用はまさにここにあります。

有酸素運動とは

有酸素運動とは酸素の消費量と供給量が見合った運動のことです。歩行、ジョギング、ダンス、縄跳び、テニス、卓球などがあります。長い時間続けられない、体が「きつい」と感じる運動は、有酸素運動にはなりません。‘無’酸素運動は疲労の原因にもなるので注意しましょう。
一般的に1分間の心拍数が40歳代で130拍/分、50歳代で125拍/分、60歳代で120拍/分ぐらいの運動が目安となります。

運動のポイント2

おすすめの運動は、ウォーキング(歩行)

誰にでも簡単にでき、長く続けられる「ウォーキング(歩行)」から始めてみませんか。 道具は必要なく、ジョギングなどに比べて膝への負担が少なく、年配の方にもおすすめできます。 1日30分間くらいを目安に、軽く汗をかく程度の速さのウォーキング(歩行)なら、有酸素運動の範囲内にあり、代償期の肝硬変まではまず問題はありません。 腰痛のある方や膝関節を痛めている高齢の方は、水泳やプールの中での歩行がよいでしょう。

天気の良い日は、景色を見ながらのんびり歩くのも楽しいものです。 普段のウォーキング(歩行)コースだけでなく、たまには旅行に出かけて季節を肌で感じてみるのもよいでしょう。 ネットなどでおすすめコースがたくさん紹介されています。 自分の歩行距離を登録できるサイトなどもあり、いろんな楽しみ方ができます。 無精な方も日常生活にウォーキング(歩行)を取り入れて気分転換をはかってみるのも一案です。

効果的な歩き方

同じ時間、同じ距離を歩くのであっても、歩き方によって運動の効果はずいぶん変わります。 以下のポイントを参考に、自分にあった歩き方を見つけてください。

日常生活にウォーキング(歩行)を取り入れる工夫

  1. エレベーターやエスカレーターを使わず、階段を使いましょう。
  2. 買い物に出かけるときに、いつもより遠い店に行きましょう。
  3. タクシー、バス、電車をなるべく使わずに、10~30分位の短い距離は歩きましょう。
  4. 犬を飼っているなら、毎日散歩に連れていきましょう。
  5. 万歩計で毎日の歩数を記録し、歩数の目標を決めましょう。

運動のポイント3

運動を行う際の注意点

運動は、ウォーミングアップが大事です。しばらく体を動かしていない人は、ウォーミングアップをしてから徐々に運動強度を上げていきましょう。 調子が悪いと感じたときは、ゆっくりと休みを取り、調子が戻ってから再開します。運動は長期間継続することが重要なのです。

患者さんの病態に応じて可能な運動の範囲があります。 特に心臓の病気や整形外科の病気をもっている人は、主治医の先生とよく相談して、その範囲内で適度な運動を行ってください。

運動量の目安は、心地よい疲れを感じる程度です。 翌朝の起床時に疲労感が残っているようなら、それは過剰な運動量になります。

肝硬変の患者さんは、糖のグリコーゲンへの貯蔵能が落ちているため、何も食べずに空腹のまま運動することは避けましょう。 運動前に、たとえばおにぎり1個、パン1個など、炭水化物を補給するとよいでしょう。

慢性肝疾患患者さんの運動の心得

  1. 脂肪肝の患者さんは積極的に運動をしましょう。
  2. 慢性肝炎の患者さんは有酸素運動をしましょう。ただし、ASTやALTが高いときは控えましょう。
  3. 目安として腹水や脳症などがない軽度(Child-Pugh分類でA※)の肝硬変患者さんまでは、有酸素運動は問題ありません。
  4. 目安として黄疸、腹水、脳症のある非代償期の(Child-Pugh分類でB以上※)の肝硬変患者さんは、ストレッチ運動程度の軽いものにとどめましょう。
  5. βブロッカーや利尿薬を服用している患者さんや食道静脈瘤が未治療の患者さんは、強い運動は避けましょう。

ご自分がChild-Pugh分類のどれに当たるかは主治医に確認しましょう。

旅行するときの注意

慢性肝炎や肝硬変の軽度の方でも、肝炎の活動性が高い(AST, ALTが200IU/L以上)ときや倦怠感などの自覚症状が強いときは、旅行は控えましょう。 肝硬変で中程度まで(腹水や浮腫、黄疸、脳症が服薬でコントロールされている時期)の患者さんは、無理のない日程でゆったりとしたペースでの旅行を計画してください。

肝硬変の患者さんは、食事からの感染症に対して弱いですから、旅先での生ものは慎重に。
また、保険証、常用薬の携行はもちろん、胃腸薬や風邪薬なども主治医と相談して準備しましょう。