多くの慢性疾患では、エアロビックな運動(有酸素運動)ならば問題はなく、むしろ体に良い効果があるという報告があります。 実際に肝臓病の患者さんに運動指導を行い、適度な有酸素運動を続けると、肝機能に悪影響はなく、むしろ糖尿病状態などが改善されます。
さらに筋肉は糖質代謝やアンモニア代謝をつかさどり、肝臓の機能を補完する作用があります。 肝臓病患者さんにとっては、運動によって筋肉を維持することは大切なことなのです。
また、運動はQOLを向上させるという効用もあります。 病気になるとQOLは低下しがちです。誰でも病気で楽しい人はいません。 でも、適度な運動によってQOLが維持・向上するといった事例はいっぱいあります。 運動を始めた患者さんからは、「表情が明るくなったと言われた。」「顔の色つやがよくなった。」「体調が良くなった。」という話をよく聞きます。 運動により、生活にハリが出て生きがいが生まれます。運動の効用はまさにここにあります。
有酸素運動とは酸素の消費量と供給量が見合った運動のことです。歩行、ジョギング、ダンス、縄跳び、テニス、卓球などがあります。長い時間続けられない、体が「きつい」と感じる運動は、有酸素運動にはなりません。‘無’酸素運動は疲労の原因にもなるので注意しましょう。
一般的に1分間の心拍数が40歳代で130拍/分、50歳代で125拍/分、60歳代で120拍/分ぐらいの運動が目安となります。
誰にでも簡単にでき、長く続けられる「ウォーキング(歩行)」から始めてみませんか。 道具は必要なく、ジョギングなどに比べて膝への負担が少なく、年配の方にもおすすめできます。 1日30分間くらいを目安に、軽く汗をかく程度の速さのウォーキング(歩行)なら、有酸素運動の範囲内にあり、代償期の肝硬変まではまず問題はありません。 腰痛のある方や膝関節を痛めている高齢の方は、水泳やプールの中での歩行がよいでしょう。
天気の良い日は、景色を見ながらのんびり歩くのも楽しいものです。 普段のウォーキング(歩行)コースだけでなく、たまには旅行に出かけて季節を肌で感じてみるのもよいでしょう。 ネットなどでおすすめコースがたくさん紹介されています。 自分の歩行距離を登録できるサイトなどもあり、いろんな楽しみ方ができます。 無精な方も日常生活にウォーキング(歩行)を取り入れて気分転換をはかってみるのも一案です。
同じ時間、同じ距離を歩くのであっても、歩き方によって運動の効果はずいぶん変わります。 以下のポイントを参考に、自分にあった歩き方を見つけてください。
運動は、ウォーミングアップが大事です。しばらく体を動かしていない人は、ウォーミングアップをしてから徐々に運動強度を上げていきましょう。 調子が悪いと感じたときは、ゆっくりと休みを取り、調子が戻ってから再開します。運動は長期間継続することが重要なのです。
患者さんの病態に応じて可能な運動の範囲があります。 特に心臓の病気や整形外科の病気をもっている人は、主治医の先生とよく相談して、その範囲内で適度な運動を行ってください。
運動量の目安は、心地よい疲れを感じる程度です。 翌朝の起床時に疲労感が残っているようなら、それは過剰な運動量になります。
肝硬変の患者さんは、糖のグリコーゲンへの貯蔵能が落ちているため、何も食べずに空腹のまま運動することは避けましょう。 運動前に、たとえばおにぎり1個、パン1個など、炭水化物を補給するとよいでしょう。
ご自分がChild-Pugh分類のどれに当たるかは主治医に確認しましょう。
慢性肝炎や肝硬変の軽度の方でも、肝炎の活動性が高い(AST, ALTが200IU/L以上)ときや倦怠感などの自覚症状が強いときは、旅行は控えましょう。 肝硬変で中程度まで(腹水や浮腫、黄疸、脳症が服薬でコントロールされている時期)の患者さんは、無理のない日程でゆったりとしたペースでの旅行を計画してください。
肝硬変の患者さんは、食事からの感染症に対して弱いですから、旅先での生ものは慎重に。
また、保険証、常用薬の携行はもちろん、胃腸薬や風邪薬なども主治医と相談して準備しましょう。